2025年10月20日、普段通りの月曜日として皆が週初めの業務を迎えましたが、その落ち着きは長く続かず、ソフトウェアのバグによってAWSの大規模障害が発生し、世界最大規模の企業や多くの主要アプリケーションやサービスに影響を与えました。問題の原因は、2つのプログラムが同じDNSエントリを書き込もうとして競合したことです。その結果、エントリは空になり、他の複数のAWSサービスも連鎖的に機能不全に陥りました。この障害により、AWSを利用している顧客は技術基盤が使えなくな り、エンジニアたちは対応に追われました。
この事例は、サードパーティ依存が多すぎる場合に何が起こり得るかを示しています。完全に技術基盤から取り除くことは難しいかもしれませんが、多くの組織は過剰なアプリやプラットフォームを抱えています。ツール、サービス、環境、複雑さが制御不能に増えること(「テクノロジーの無秩序な拡大」)は、現実的な運用リスクであり、セキュリティ上の課題でもあります。
技術スタックの複雑化と企業の財務安定性への懸念が高まる中で、セキュリティ部門やIT部門のリーダーはプラットフォーム統合を戦略的優先事項としています。しかし、技術スタックの統合は、見た目以上に複雑であることが多く、ほとんどの企業は、進捗の遅さにフラストレーションを感じています。素早く停止したい一方で、サービスの置き換えには時間がかかります。切り替えにかかる高額なコスト、互換性の問題、ベンダーの不確実な約束、内部チームの製品知識や好みなど、統合を複雑にする要素は多岐にわたります。
それでもテクノロジーの無秩序な拡大は放置せず対処する必要があります。断片化したスタックは、ITリーダーの効率性、俊敏性、セキュリティ運用の直接的な障壁となります。それに加えて、企業は自分たちが把握しているよりも多くのSaaSアプリケーションを常に稼働させています。
技術スタックの統合は、特に企業がAI主導の未来に備える上で、広範なモダナイゼーションの取り組みの重要な要素として浮上しています。AIの台頭により、データ品質が今日の組織が直面する最も緊急の課題の一つとして注目されています。多数の異なるアプリケーションを、より堅牢なプラットフォームに統合して主要な業務プロセスを実行できるようにすることは、データ品質を改善しつつ、AI統合の余地を作るための重要な第一歩です。
AIのための余地を作ることは、単に重要というだけでなく、不可欠です。テクノロジーは急速に進化しており、進歩のたびにかつてないペースで従来のアプローチを陳腐化させるという自己破壊的な特性を帯びています。テクノロジーの無秩序な拡大に陥ったままの組織は、AIの変革的な可能性を活かすことができなくなります。
2025年10月のGartnerの予測によると、世界のIT支出は2026年に6兆ドルを超えると予想されています。企業は一般的にソフトウェアへの投資を増やしており、特に生成AIを組み込んだソフトウェアに対 する支出をさらに増大させています。
しかし、この道のりは複雑です。経済状況が不透明な中でSaaSアプリの価値を証明する必要があるため、企業はコスト最適化を望んでいます。一方で、AI施策がコストの最大の要因となっています。2026年Cloudflareアプリイノベーションレポートによると、主要企業の72%が、AI導入が予算変更に影響を与えると回答しました。
技術スタックの肥大化は、IT部門を停滞させます。技術スタックの断片化は、ITチームとセキュリティチームの両方に、次のような隠れたコストを生み出します:
セキュリティリスク:管理するサードパーティプラットフォームが増加するほどにセキュリティリスクが高まり、これにより従業員が複数のアカウントで同じパスワードを使い回すようになり、認証情報の漏洩が増加する可能性が高くなります。また、複数のベンダーが企業データにアクセスできる状況では、ベンダー従業員のミスがパートナーエコシステム全体に波及する可能性があります。このような状況では、しばしば第三者に問題を解決してもらう必要があります。
金銭面と時間面での無駄:Forresterによると、IT意思決定者の4分の3近くが、自社の会計年度に設定されたクラウド予算を超過したと述べています。ライセンスの重複、未使用のユーザーライセンス、過去のプロジェクトの忘れられた環境、設計が不十分なワークロードなど、非効率が積み重なってきます。
生産性の低下:開発者はスプリント目標や生産サイクルの達成のために懸命に働き、セキュリティチームは組織とその顧客の安全を守るために懸命に働きます。しかし、断片化された技術スタックは、両者の足を引っ張る存在となります。コンテキストの切り替えや複雑なシステムの操作に時間と精神的エネルギーを費やし、メンテナンス作業に煩わされ、技術的負債につながるようなコードのショートカットに頼ってしまうこともあります。
テクノロジーの無秩序な拡大は、一度に起こるものではなく、時間をかけて蓄積された結果です。これを解消するのも同様に長期的かつ継続的な取り組みが必要です。組織は、統合プラットフォームを通じてベンダーやツールを統合することで、サイバーセキュリティの複雑さを軽減し、総所有コストを削減し、従業員の効率への負担を軽減できます。
ソフトウェア統合にはいくつかの利点があります。これは、BCGの調査によると、ほぼすべてのIT製品カテゴリの購入者の大多数が統合計画を持っている理由を説明できるでしょう。迅速に進めたいという希望があっても、技術スタックの統合には時間と綿密な計画が必要です。企業内で数百、あるいは数千のSaaSアプリケーションが使用されている場合、すべてを一度に統合することは現実的ではありません。小さなステップで進めることが、より現実的で確実な戦略です。
体系的で計画的なアプローチを採用する企業は、通常より高い成功を収めています。以下のような対策を講じることで、組織はITだけでなくサイバーセキュリティの技術スタックを合理化して進めることができます:
現在の技術スタックを監査して、重複や非効率を特定し、統合で達成すべき明確な目標を定めます。無秩序に拡大した技術スタックは非常に複雑であり、どのツールも最大限に活用することが難しくなります。各部門に話と話し合い、使用しているアプリケーションや、その使用方法について確認し、コスト、契約期間、ユーザー数やその種類、連携などの項目で分類します。
私自身、アプリケーションのカスタマーサクセスチームが対応している姿を見るのが好きです。私がどのように製品を使用しているかを理解してもらえれば、その製品を最大限活用するための提案をしてくれるのです。理想的には、あなたを真のパートナーとして扱う企業との関係を続け、あなたを単なる購入者として扱う企業との関係を断ち切ることです。
主なメリット:不要なツールや重複ツールを特定することで、コスト削減が可能となり、その分を他の優先事項に回すことができるようになります。
セキュリティサービスエッジ(SSE)やセキュアアクセスサービスエッジ(SASE)などのエッジモデルを導入します。適切なSSEを導入することで、セキュアWebゲートウェイ、データ損失防止、ゼロトラストネットワークアクセスなどの機能を、単一のプラットフォームで実現できるようになります。SASEソリューションは、SSEのセキュリティ機能とネットワーキングサービスを組み合わせたもので、接続性とセキュリティの両方の課題に対応する包括的なクラウドプラットフォームです。
主なメリット:統合された技術スタックにより、ITチームはアプリケーションを監視し、セキュリティ標準を容易に設定できるようになります。また、ユーザー、アプリケーション、ISP、チーム、クラウド環境間での直接的な「any-to-any」接続を提供できます。
グローバルなクラウドインフラストラクチャを活用して、スケーラブルでオンデマンドなコンピューティングサービスを通じて、より簡単なコラボレーションと迅速なデプロイを実現します。クラウドアプリケーションプラットフォームを使用することで、耐障害性を向上させ、柔軟性を高めるためのAPIファーストの共有サービスアプローチの実装が可能になります。すべての人が同じツールを利用することで、コラボレーション能力を最大限に活用できるようになります。
主なメリット:イノベーションが加速するため、市場投入までの時間が短縮し、納期の遵守はもちろん、その分をより良いユーザーエクスペリエンスの開発にあてられるようになります。
統合はチーム全体で 取り組む作業です。他部門にも自分たちが使っているすべてのSaaSアプリケーションを把握してもらい、何を残し、何を削除するかの責任を持たせることが重要です。アカウントの監査、削除、サブスクリプションの解約、ツールのインストールまで、責任者を明確にすることで、全員が計画通りに進めやすくなります。
主なメリット:スタックを統合することで、データの収集と管理の「信頼できる唯一の情報源」を作ることができ、コンプライアンス監査にも役立ちます。
「簡単」な方法と「シンプル」な方法には違いがあります。川を渡るのに、「簡単」な方法は石を敷き詰めてその上を歩いて渡ることですが「シンプル」な戦略は、長く使える頑丈な橋を建設することです。テクノロジーの無秩序な拡大が進む理由の多くは、「簡単」さを求めてアプリケーションを追加してしまうことですが、必ずしもそれは「シンプル」な方法ではありません。
統合には戦略が必要です。すぐに始めて、成功を期待できるものではありません。むしろ、計画的に準備して定期的に実施する方が、一度限りの多額の投資よりもストレスが少なく、成功する可能性が高くなります。
主なメリット:運用の簡素化とワークフローの合理化(作業の中で使用する ツールの数を減らす、タスクを自動化または排除するなど)により、煩わしさを減らすとともにミスを減らすことができます。
このような手順を踏むことで、技術スタック統合の課題を軽減することができます。次の事に留意することで、統合に際しやってしまいがちな間違った行動を避けながらプロセスをさらに簡素化することができます:
ツールを試すことは良いことですが、一時的な流行やトレンドに惑わされると、価値を高めることなくリソースだけが消費されることになりかねません。自社の具体的な課題や、チームに実際に役立つものを考えて判断しましょう。チームメンバーと良く話し合い、現状うまくいっている部分と問題が残っている部分を把握しましょう。場合によっては、隣に座って実際の作業を観察することも有効です。
以前、私が観察した作業の中には、椅子を移動させながら複数のシステムを操る必要がある、本質的に非効率な中で業務を行わなければならない人たちが居ました。統合作業の中でそうした極端な状況を把握できれば、自然と改善・削除してその人たちを救うことができます。
技術スタックの統合は継続的なプロセスです。実施には、一貫した進捗管理、データ管理、フィードバックが必要です。組織内の他のリーダーと定期的に話し合うことで、新たな気付きを得ることができます。私は、インフラ、セキュリティ、開発チームのリーダー同士が、定期的に雑記や重点事項を共有することを勧めています。
テクノロジーの無秩序な拡大を解消するには、統合されたネットワークファブリックの下で適切なインフラストラクチャを実現することを目標に、まず現状況把握と目指す姿を確認することから始めます。AIの進化に伴い、統合戦略を持っていれば柔軟に方向転換することが容易になります。
Cloudflareのコネクティビティクラウドは、プラットフォーム統合を進めるITチームの負担を軽減します。これは、単一のネットワーク、単一のコントロールプレーン、単一の管理インターフェースを備えた、統合型のインテリジェントプラットフォームであり、この強力な機能により、技術スタックの効率を向上させながら、企業の俊敏性とセキュリティを高めます。
企業が長期的に成功を収めるためには、技術スタックの統合は避けて通れません。受け身で対応するのではなく、最初から主導権を握り、どこに価値があり、どう活用すれば最大限に引き出せるかを実践的に見極めまし ょう。
この記事は、技術関連の意思決定者に影響を及ぼす最新のトレンドとトピックについてお伝えするシリーズの一環です。
AI実装の課題、それらを解決するための実践的な戦略、そしてコネクティビティクラウドがどのように役立つかについて、詳しくは電子書籍『AIの保護と拡張のためのエンタープライズガイド』をご覧ください。
Mike Hamilton — @mikehamilton
Cloudflare CIO
この記事では、以下のことがわかるようになります。
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